読まぬ日もある

「読んだよ」と誰かに話したいもののみ記す、雑読メモです。

成瀬は都を駆け抜ける

成瀬は都を駆け抜ける

成瀬は天下を取りにいく」、「成瀬は信じた道をいく」に続く、成瀬あかりシリーズ第3弾。 

本作で好きだった箇所。

◎「ぼきののか」
北野天満宮にて、成瀬と出会った田中ののか(立命館大学2回生)。自身が運営するユーチューブチャンネル「ぼきののか」(日商簿記1級を目指す)の生配信中に、やたらと目立つ成瀬を見つけ、飛び入り参加を依頼したのだ。
初対面であっても「来るもの拒まず」の成瀬が、快く参加する流れが自然で、ぼき友(視聴者)とのチャットの掛け合いも絶妙に面白い。田中は陽キャを演じてはいるが実は闇を抱えていて、最もやばいのは、以前2級を受けて不合格だったにもかかわらず、とっさに合格したと配信で嘘を言ってしまったこと。そして、ちょうど成瀬との配信中に、乱入してきたぼき友によってそれがあばかれてしまう。
謝罪配信をすることになり、成瀬が城山(「成瀬は信じた道をいく」に登場)に応援を依頼する。確かに有識者。こうきたか。

「成瀬さんが僕に連絡してくれてよかったです。謝罪ってYouTuberの真価が問われる一大イベントじゃないですか。(中略)このピンチこそ、ぼきののかが新たな視聴者をつかむチャンスです。全力でプロデュースさせていただきます!」

頼もしいー。ひょうひょうとした感じがいい。
謝罪配信中に、成瀬が突然、自分も一緒に簿記2級を受けると言い出すところもいい。後から、坪井(京大で同じ学部)と梅谷(京大でサークルに勧誘された)と、結局城山まで一緒に受けることになる。知り合って間もない不思議なメンバー。そして全員合格。
田中の嘘バレと謝罪配信以降にしつこく続く誹謗中傷コメントに対する、成瀬の書き込みが成瀬らしく、繊細で正直、と思った。

「たしかに詐称していたが、今度受かろうとしている」「正直私も田中のことはよく知らない」と真摯に答え、「さす成」の賞賛を浴びていた。

◎「そういう子なので」
成瀬の母(美貴子)の語り、の章。
小さい頃から無表情で、いわゆる、子どもらしくてわかりやすくて大人に好かれる子、ではなかった成瀬。小学6年の三者面談(その場に成瀬もいたのだ)で、男性担任ににやにやしながら言われた「嫌な記憶」。

「あかりさんは協調性がなさすぎます」
「夏休みの宿題、全部やることが目的になっていませんか」
「運動会で優勝してもひとりだけ喜んでいませんでした」
(中略)「お母さんからもちゃんと言ってあげてくださいよ」
ひとつひとつに反論したいところだが、相手が考えを改めるとは思えない。美貴子はただ一言、ぽつりと言った。「そういう子なので」。

そういう子で、良い、と母が思っているということ。
成瀬にしっかり伝わって、成瀬を安心させ、自分はただそのままでいいという自己肯定感を成瀬に与えてくれて、だから成瀬は恐れずに長所を伸ばせて、他者に優しいのだ。そして心がオープンなのだ。
よかった。

◎「親愛なるあなたへ」
高2の時、競技かるた高校選手権で成瀬と知り合い、成瀬を好きになり、当時スマホを持っていなかった成瀬と文通を続け、広島から京都の私大に入学した西浦。
せっかく京都に来たのに成瀬にはほとんど会えず、打ち明けられずにいた西浦の純情、そして言うときは言う、漢らしさ(?)に萌える。

成瀬への手紙に使う便箋と封筒を、毎回わざわざ鳩居堂で、「成瀬さんに似合いそうかどうか」を基準に選ぶ西浦。成瀬の一言一句に悶える西浦(「しかし、そのおかげで私たちは出会えた」「西浦は、私にとって大切な存在だ」「西浦がここまで私に会いたがっていたなんて知らなかった。今から30分くらい鴨川沿いを歩かないか」)。これは一般的には思わせぶりな言葉なのだが、成瀬の本心がわからない…。西浦の手話「あなたが好きです」に対する成瀬の返事「ありがとう」の、本当の意味するところもはっきりとはわからない。もうちょっと深掘りして欲しい~。
この章で、成瀬と会う約束をこじつけた西浦が、成瀬の忙しい1日の予定に次々と振り回されるのがおかしかった。心も身体も振り回されながら、すごく青春していて、とてもよかった。

…成瀬あかりシリーズはこれで完結とのこと。すごく残念。「ぼきののか」で言っていた「観光大使ー1(ワン)グランプリ」はどうなるの?卒業後に成瀬は何になるの?社会での挫折は?西浦との恋は?結婚は?転職は?家の購入とか親の介護とかは?

同著者の「婚活マエストロ」「それいけ! 平安部」も実は読了したのだけれど、ここに書く気持ちにはならなかった(生意気ですみません)。成瀬のキャラは本当に、秀逸なので。